吉田 萠  ジェルンディオ   7/6–7/31
無題I(或いはピゴチャーズI)/厚紙にペーパーペースト、モデリングペースト、鉛筆、パステル、アクリル絵の具/310x220mm/2017年

吉田 萠  ジェルンディオ   7/6–7/31

吉田萠は、1998年にイタリアに渡って以来、主にボローニャとニューヨークを拠点に活動しています。吉田の主題は、記憶やアイデンティティーの構造やそれらを視覚化することで、近年は”物語る方法”にアプローチしながらこの主題に向きあっています。これまでのパフォーマンスやドローイングでも、解剖学や人間と深い関わりのある動物等を素材にして人間の”物語る身体性”を表現してきました。本展では、”物語る身体性”とそこに内在される時間感覚をテーマに、浅海の砂泥中に生息し、砂を食べ、海水とともにそれを濾過して排泄する、人類と遠い祖先を同じくする海の生き物(ギボシムシ)からインスパイアされた、立体、半立体、平面の作品を展開いたします。日本で初めてとなる展覧会、ぜひご高覧ください。

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展覧会について ( ガブリエーレ・トージ キュレーター )

 吉田はドローイング、コラージュ、彫刻、パフォーマンスといった様々な表現を試みながら、シンプルな存在を思いもよらない方法で展開し、ひとつの空間や仕組みを構築していく。吉田はインスピレーション源である対象に対立的な態度をとらない。彼女の制作手段は、いくつかの点で生体解剖に近いものを感じさせるが、対象から抽出する形はその中に全体のありようを常に内包しており、分断を狙うものではない。吉田は人間の世界を構成するもっとも根本的な事象に注意を払いながら、動物たちを媒介にした複雑な表現言語を用いて作品世界を作っていく。
 吉田の芸術的探究は自身の経験とつながっている。彼女は日本に生まれ、長らくイタリアとニューヨークを行き来しながら生活してきた。文化の違いは−それは常に自己言及的、閉鎖的、競争的な表情を見せる−、彼女にとって成長と探究、繰り返し行われる交渉と自身の変化のための恰好のフィールドであった。本来相容れないものを関連させ、衝突を経て出会いに至る異文化での生活は、最も広い意味でのアイデンティティーを維持し育てる稀有な習慣を作り上げた。
 吉田はその作品の中で、物事の断片を様々に交雑させ、それらの間に有機的な関係を築こうとする。彼女の手により動物たちは、固有の能力と本能的な動作をもとに一旦解体され、そして全く別の姿に再構成される。思いもよらない変形は、生き残るための動物たちの緊張の顕れのようでもある。吉田の作品中に見られるこの特徴的な断片性に関してはこうも言える。我々がもし言いたい事の全側面を言い表そうとしたら、時間と空間の不足に直面してしまう。実際、ひとつの時間の中では、物事をひとつずつ順番に述べることしかできない。もし物事や出来事を全て同時に述べようとしたら、表現不能の暗い深みへと陥る。そこで吉田は、物事の断片とディティールをそれらが所属していたコンテキストから抽出することで時間を区分けにし、伸縮性を与え、対象のもつ複雑な多面性を浮かび上がらせようとするのである。このようにして吉田の対象は唯一の姿ではなく、いくつものカタチに分けられ、ひとつの行為ではなく、数えきれない行為と結果の可能性を内在する存在として捉えられていくのである。
この過程を経た体や臓器は機械に近くなり、やがて記号や文法の働きを獲得する。一方で同時に作品に現れる「言葉」は、生き物の属性を取得していく。ただし、これらカタチの非互換性は、かみ合わないものとしては提示されない。なぜなら白い色調とその中で混ざり合う暗い線や色といった彼女の表現は、生成的であり、到達しえないもののための補綴、そしてひっきりなしに生まれる傷や亀裂をつつむガーゼの役割を果たしているからだ。
 本展は、ギボシムシへのインスピレーションに基づいている。ギボシムシは海に住む小さな動物で、生物学の近年の研究において、我々を含めた脊椎動物の進化のルーツとされている。砂を食べ有機物を摂取し、エラと消化器系を経て体外に排出した後、自らの上に堆積させて城のようなものを築く。このような生態を引用することで、吉田は我々の日常の無意識、つまり我々が日々気づかぬうちに己をとりまく世界を糧にし、その未来に臨時にカタチを与えているひそやかな習慣をつまびらかにする。吉田はこの小さな生物の頑丈な体にひとつの、夢と記憶の砂の城という文化の物語を築く。画廊の空間の中で、作品群は観客の前に化石のコレオグラフィー、つまり進化の過程に耐えつづけ残存したものを称えるダンスを現出させる。ギボシムシが住まう海は、我々の生きる現実の、その流動状態のメタファーであり、そこでは、私たちもまた、フィルターにかけられ無自覚のままにこの世界の一部を構成している。

期間
2017年 7月6日(木) – 7月31日(月) 12:00-19:00 (最終日は-17:00) 終了しました
※期間中の水曜・日曜・祝日は休廊いたします。
場所
GALLERY TAGA2
オープニングパーティー
7月6日(木)18:30-20:30 未定
お問い合わせ
info@gallerytaga2.com  田賀