松本 三和  天辺懸けたか    6/13–7/9
木の中を鳥たちが飛んでいる/キャンバス、アクリル、オイルバー/333×335 mm/2009年

松本 三和  天辺懸けたか    6/13–7/9

松本三和はキャンバスにオイルバーで線をひき、描いていきます。日常の何気ない光景や自然から必要なものだけを選びとったイメージは、それらに宿るなにものか、そしてそのずっと奥にあるものを私たちに想わせてくれます。本展では2000年から2016年頃までの作品を振り返りながら、一時制作から離れていた作家がまた絵を描くことに向き合い出した今に立ち会っていただく機会になります。
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世界にはよろこびがある  (高橋 夏菜、芸術表象研究)

 被爆者の遺品を撮影している写真家・石内都は、持ち主を失い、保管され続けるワンピー スやブラウスを「過去になることが出来ない」と言い表した。*1
 石内が撮影した遺品は、きっと彼女や私よりも長くこの世に残り、保管され続けるだろう。 人間は過去になっていく一方で、残された物だけが現在にとどまり続ける。しかし同時に、 石内都という写真家と、人々が守ってきた品々とのつかのまの邂逅は、戦禍の記録でありな がらも、のびやかに可憐な、夏の装いを私たちに見せてくれる。異なる時間を過ごすもの同 士の接触には、ままならなさと喜びがある。
 松本の作品を見るとき、私は決まって石内の言葉と写真を思い出す。表現する媒体も、表 わされた経緯もまったく異なるのに、異なる時間を過ごすもの同士の邂逅について、考えず にはいられない。
 慕わしい故人を語るとき、私たちは必ずしも、そのひとの経歴や業績のすべてをつまびら かにするわけではない。それよりも、毒にも薬にもならないようなばかばかしい口癖や、調 子っぱずれの鼻歌をひとつ真似てみることで、そのひとがまざまざと鮮やかに立ち上がる 瞬間がある。松本は、そういう口癖や鼻歌を拾い上げるように、線を選び、絵を描く。そう して立ち現れた精緻なリトグラフや、のびやかなタッチのオイルバーペインティング、本展 示の新作となる油彩画は、美しいと感じる一方で、どこかもの悲しくもある。
 拾い上げられた口癖や鼻歌は慕わしいが、言葉尻が刷新されることはないし、鼻歌が上達 することはない。いつか端々が思い出せなくなり、私たちから遠ざかるだろう。植物には植 物の時間がある。松本が描く光や植物は、人とは異なる時間にあることを、まざまざと思い 知らされる。だからこそ、ほんのわずかに接近した瞬間が、かけがえなく美しい。
 本展のタイトル「天辺懸けたか」は、ホトトギスのさえずりを、人間の言葉に置き換えて 覚えやすくした「聞き做し」と呼ばれるものだ。言ってしまえば、人間の都合のよい解釈で はある。だが人とは異なる範疇にあるものへ、手持ちの道具でどうにかして近づこうと試み たこの言葉を、私はいじらしく幸福な空耳だと思う。
 この世は、多くの小鳥と彼らの歌であふれているということの観察に、「聞き做し」を手 掛かりにした人々のように、私たちは松本の作品を手掛かりとして、異なる時間を過ごすも の同士の邂逅を考えることができる。いつか離れていくもの、遠ざかるものとの、一瞬の接 触は確かに喜びに満ちている。

*1 「夏の装い」『写真関係』2016 年
(初出『石内都展 ひろしま Strings of Time』パンフレット所収 2008 年)

期間
2019年 6月13日(木) – 7月9日(火) 12:00-19:00 (最終日は-17:00)終了しました
※期間中の水曜・日曜・祝日は休廊いたします。
場所
GALLERY TAGA2
オープニングパーティー
6月15日(土)18:30-20:30
お問い合わせ
info@gallerytaga2.com  田賀